2019.8.7
初めて従業員を採用したら(労務管理編)【スタートアップの労務と手続き③】
スタートアップのお客様からよく頂くご質問にお答えしていく「スタートアップの労務と手続き」。今回は、初めて従業員を採用したらやるべきことを、前回の手続き編に続き、労務管理編として紹介していきます。
従業員を1人でも雇用すると、日々の労務管理が求められるようになります。その日々の労務管理を記録したものが、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿のいわゆる法定三帳簿といわれるもので、法令上、使用者にその作成が義務付けられています。
それでは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿には、どのような事項の記載が必要なのでしょうか。保存方法や保存年限なども併せて紹介します。
労働者名簿
労働者名簿には、労働基準法とその施行規則により、以下の事項を記載しなければなりません。また、記載事項に変更があった場合には、遅滞なく訂正することが求められます。
〇労働者の氏名
〇生年月日
〇履歴(異動や昇進など、社内での履歴)
〇性別
〇住所
〇従事する業務の種類(常時30人未満の事業場は、記載不要)
〇雇入の年月日
〇退職や死亡年月日、その理由や原因(退職の事由が解雇の場合、その理由も)
労働者名簿の様式は、厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)からもダウンロードができますが、記載内容に漏れがない場合は、任意の様式でも差し支えないとされています。給与計算ソフトなどで、従業員情報を入力すると、労働者名簿を自動で作成できる場合もありますので、そういった機能を活用するのも良いでしょう。紙ではなく電子データでの保存でも問題はありませんが、労働基準監督署等に求められた場合には、速やかに提出できるよう管理しておきます。保存年限は、労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間です。
賃金台帳
賃金台帳には、労働基準法とその施行規則により、以下の事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません。
〇氏名
〇性別
〇賃金計算期間
〇労働日数
〇労働時間数(管理監督者や高度プロフェッショナル制度対象労働者などを除く)
〇時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数( 〃 )
〇基本給や手当等の種類と額
〇控除項目と額
労働者名簿の様式は、厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)からもダウンロードができますが、記載内容に漏れがない場合は、任意の様式でも差し支えないとされています。給与計算ソフトの機能で作成されている会社がほとんどですが、給与計算時に上記必要記載事項の入力漏れがないようにしましょう。紙ではなく電子データでの保存でも問題はありませんが、労働基準監督署等に求められた場合には、速やかに提出できるようにというのは、労働者名簿と同様です。保存年限は、労働者の最後の賃金について記入した日から3年間です。
出勤簿
賃金台帳には、労働日数や労働時間数、時間外労働時間数等を記入するため、労働日ごとに始業・終業の時刻を確認し、適正に記録することが必要となります。そのための帳簿が出勤簿ということになります。
労働時間の把握は、2017年1月に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき行います。また、2019年4月改正の労働安全衛生法により、健康管理の面からも、労働時間の状況の把握が義務付けられていますので、両者の基準をクリアする労働時間管理を行っていくことになります。
具体的には、労働時間の把握の方法については、原則、使用者の現認や、タイムカード・ICカード等の客観的な方法による必要があります。やむを得ず自己申告による場合は、適正に把握できるよう様々な措置が求められますので、可能な限り原則の方法によるようにしましょう。初期費用が気になる場合は、1名あたり月額数百円で利用できる勤怠管理クラウドなどもありますので、導入を検討するのも良いでしょう。
労働時間の把握が必要な労働者については、通常の労働者はもちろんですが、労働安全衛生法の方で、管理監督者や裁量労働制の適用者など、高度プロフェッショナル制度対象労働者を除くすべての労働者の把握が必要であるとされています(高度プロフェッショナル制度対象労働者も制度上、「健康管理時間」の把握は必要ですので、実質、すべての労働者の労働時間管理が必要になったと言えます)。ちなみに、労働安全衛生法では、労働時間の状況の把握の結果、1か月あたり80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対しては、速やかにその旨を通知し、本人から申出があった場合には、医師の面接指導を受けさせなければならないとされています。
出勤簿の保存方法については、紙ではなく電子データでの保存でも問題はありませんが、労働基準監督署等に求められた場合には、速やかに提出できるようにというのは、労働者名簿や賃金台帳と同様です。保存年限は、労働者の最後の出勤日から3年間です。
法定三帳簿をしっかりと整備し、労務管理の基礎固めを
今回、紹介した法定三帳簿に加えて、2019 年4 月からは、働き方改革の一環で、「年5 日の年次有給休暇の確実な取得」と、それに関連して年次有給休暇管理簿の作成が必要となりました(3年保存)。年次有給休暇管理簿には、年次有給休暇(以下、「年休」といいます)を取得した日付、年休を取得した日数、年休を付与した基準日を記載しなければなりません。また、年次有給休暇管理簿は、労働者名簿や賃金台帳と併せて作成することができ、必要なときにいつでも出力できるのであれば、システム上で管理しても差し支えないとされています。お使いの勤怠管理ソフトや給与計算ソフトで作成できる場合もありますので、効率的な管理方法について検討してみましょう。
必要な帳簿は多くありますが、自社に合った方法を選択し、無理なく続けられる仕組みを整備することが肝要です。現在は、クラウドサービスなどの労務管理ツールも充実していますので、適宜活用しながら、労務管理の基礎固めをしていきましょう。