初めて従業員を採用したら(手続き編)【スタートアップの労務と手続き②】

 

スタートアップのお客様からよく頂くご質問にお答えしていく「スタートアップの労務と手続き」。今回は、初めて従業員を採用したらやるべきことを手続きを中心に紹介します。
従業員を1人でも雇用すると、労働条件通知書の交付、労働保険・社会保険の手続き、時間外・休日労働協定(36協定)の締結・届出、法定帳簿の整備など、やるべきことが発生します。(法定帳簿の整備については、次回、労務管理編として紹介します)
それでは、流れに沿って見ていきましょう。

 

労働条件通知書の交付

従業員を採用したら、まずは、労働条件通知書を交付(または雇用契約書を締結)しましょう。法令上、労働契約締結時には原則、書面により労働条件を明示することが求められているためです。
具体的な明示すべき事項については、当サイトのこちらのページをご覧いただきたいのですが、項目は多岐にわたるため、厚生労働省のモデル労働条件通知書(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)などを活用し、漏れなく明示するようにしましょう。

 

労働保険・社会保険の手続き

労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金)については、下記書類の届出が必要となります。(【 】内は届出先)

 

まずは…
○労働保険 保険関係成立届(基本的に会社が従業員(パートやアルバイトも含む)を1人でも雇用すると届出が必要)【労働基準監督署】
○労働保険 概算保険料申告書(年度末までの賃金の見込額により概算保険料を申告・納付)【労働基準監督署へ申告後、金融機関にて納付】

 

さらに、週の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込がある場合は…
○雇用保険 適用事業所設置届【ハローワーク】
○雇用保険 被保険者資格取得届【 〃 】

 

さらに、週の所定労働時間および月の所定労働日数が自社の一般社員の4分の3以上である場合は…
○健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届【年金事務所、郵送の場合は年金機構事務センター】
○健康保険 被扶養者(異動)届(被扶養者がいる場合) 【 〃 】
○健康保険・厚生年金保険 新規適用届(自社で初めての社会保険加入者である場合) 【 〃 】

 

労働保険の届出の際には、登記簿謄本(コピー可)が必要です。ハローワークには、労働保険 保険関係成立届の控え(労働基準監督署で受付印をもらったもの)と、雇用保険に加入する従業員の出勤簿のコピーも持参しましょう。

社会保険の届出の際には、被扶養者(異動)届にはマイナンバーの記載や添付書類が必要となりますので、日本年金機構のサイトでご確認ください(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20141204-02.html)。新規適用届には、登記簿謄本(原本。確認後、返却されます)の添付が必要です。

 

時間外・休日労働協定(36協定)の締結・届出

労働基準法では、時間外労働(1日8時間・1週40時間を超える労働)や休日労働(法定休日(週1回の休日)における労働)が原則、禁止されています。時間外労働や休日労働の発生が見込まれる場合は、労使間で時間外・休日労働協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
36協定届の様式は、厚生労働省のサイトでご確認ください(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)。この協定届で、労使間の協定を兼ねることができます。
36協定で定めた時間外労働時間数を超えて労働させるとこれまた違法になってしまうのですが、だからといって時間数を無限に増やして協定して良いわけではありません。以下では、働き方改革の一環で導入された時間外労働の上限規制(大企業2019年4月、中小企業2020年4月適用)について、改正前後を比較しながら解説していきます。

 

改正前は…
月45時間・年360時間などの上限の基準を定めた厚生労働大臣の告示(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(限度基準告示))はありました。ただ、臨時的な特別の事情が予想される場合には、36協定に特別条項を付帯して、これらの時間を超える時間外労働を行わせることも可能でした。

 

改正後は…
時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定されました。原則は月45時間・年360時間とされ、特別条項を付帯しても以下の上限を上回ることはできません。
・年720時間以内
休日労働を含め 月100時間未満
休日労働を含め 2~6か月平均80時間以内
・月45時間を超えることができるのは年6か月まで
※建設事業、自動車運転の業務等は、適用が5年間猶予され、2024年4月以降も一部、取扱いが異なります。

 

中小企業への適用も2020年4月に迫っていますので、上記を踏まえ、36協定の締結・届出の実務を進めていきましょう。

 

早めの対応で労務トラブルに先手を

今回は、初めて従業員を採用したらやるべきことを手続きを中心に紹介してきました。
この段階では、従業員が知人である場合も多いかもしれませんが、対応がいい加減になってしまうと労務トラブルが潜在化する(人数の増加によりいずれ表面化する)ことになるため、早い段階で労務管理の枠組みを整備されることをお勧めします。